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リーマン・ショックから、9年。個人投資家が忘れないでおくべきこと
2008年9月15日、リーマン・ブラザーズが経営破たんした。日本ではリーマン・ショック、海外ではFinancial Tsunami(金融津波)と言われる象徴的な事件。2009年アメリカは正式に景気後退入りを宣言し、有史以来例をみない金融緩和が現在に至るまで行われている。景気は回復したように思えるが、2007年には連銀のFFレートが5.25%だったことを考えると低金利状態・緩和状態が続いているため今はむしろ異常だ。
29年前はそう遠い昔ではないものの、投資家は忘れやすい生き物である。一度おカネがおカネを生むことを知ってしまった人間はその誘惑に無防備ではいられない。おカネがおカネを生むという陶酔は麻薬のようなものなのだ。そして「今度こそは確実に儲かる」と種銭をすり減らしていく。
弊社のクライアントには口を酸っぱくして繰り返して言うが、おカネがおカネを生んでいるのはそれに見合ったリスク・テイクをしているからである。投資家は金融市場で地雷が埋まった土地をそぞろ足で歩いているようなもの。地雷原は少しの刺激で爆発する。おカネがおカネを産んでいるときは、地雷が爆発するものであるという事実を忘れてしまうのだ。
投資家は「地雷原に足を踏み入れたつもりはない」という。悪い営業マンの口車に乗せられたから、自分は何も知らずにオフショア投資を始めたのだ、と。無責任な営業マンがいることは紛れもない事実で、私どもの窓口にも開いた口が塞がらない…というご相談は寄せられる。しかしまさに、そこからが自立のチャンスである。今まで人任せにしてきた資産運用を手綱を自分のもとに手繰り寄せるチャンスだ。リーマン・ショックは厄災であったが、何か一つポジティブな側面をあげるとすれば投資家がカネがカネを生むという陶酔に対して免疫ができたことだ。良い話には必ず裏があるという事実を、少しでも知ろうとする姿勢ができたことだ。弊社は、その手綱を引き寄せるというお手伝いをしているわけだが、手練手管で投資家を籠絡する金融サービス(という名の投資家殺し)と対極にいることができることは名誉なことである。
IFAスイッチもサービス開始から満2年を経過しようとしているが、リーマン・ショックから引き出せる教訓は無限にある。そのうち特にクライアントと共有したいというものを3つ挙げる。
a. 歴史は繰り返す
リーマン・ショック(2008 -)前のバブル破裂といえアメリカのばネットバブル崩壊(2000 -)だ。それより遡ると日本のバブル崩壊(1990 -)、その直前のポートフォリオ・アシュアランス・プログラムが引き起こしたブラックマンデー(1987 -)、貯蓄貸付組合の莫大な債務焦げ付き(1980 -)がある。その都度規制緩和され場合によっては血税が投入されてきた。投資家が急いで損失を確定するため下げ幅は一層大きくなり、また損失を確定させたい投資家が急いで売るという悪循環が繰り返され市場が焼け野原になったのちようやく事態が好転するという流れも変わっていない。
これらの事象を繰り返すと、このゆっくりと上り坂を登って凄まじい速度で転げ落ちるというマーケットの性質は変わっていない。地雷を起爆する装置は相変わらず市場に埋め込まれてはいるものの、私たちはそれを知る術がほとんどない。また起爆装置は行政の一通達(たとえば日本のバブル崩壊における特金、ファントラ禁止など)に仕組まれているかもしれない。問題は、それを見つけられない政府や金融機関や投資アドバイザーにあるのではない。金融市場はそもそもバブルを避けられない性質を内包している。
なので、リーマン・ショックのような金融事件は繰り返す。それは政府がより良い制度設計をしないとか、金融機関が強欲だからとかに関係なく。今は株式市場は小康状態が続いているが、いずれ嘘のような雪崩が起きるだろう。積立投資をしている方はドルコスト平均法により自動的にナンピン買いができるので雪崩は黙って見ていればよいが、一括投資をしている方は今後細かく弊社のアドバイスに耳を傾けていただく必要がある。
b. マネーの神はいない
リーマン・ショックから遡ること1年、今から10年前、様々な金融プロフェッショナルが「マネーの神」のような扱いで経済誌の表紙を飾ったことをご記憶されているだろうか。今その「マネーの神」たちは一体どこに行ったのだろうか。神様なんだから、リーマン・ショックもきちんと見抜いて厳しい相場を切り抜ける指南をされたのか。いや、むしろその逆である。上がる上がると指南した株は下がり、すっかりその方たちは昇天されて、本当の神様になってしまったのかもしれない。バブル崩壊の前には必ずマネーの神が現れるものだが、その寿命は短い。彼らの言うことに踊らされて短期で売買を繰り返していれば、かなりの確率で神様を恨むことになる。
c. 市場リスク以外のリスクは排除する
市場リスクとは、購入したファンドが上下することである。自分が投資したものに対するリスクは既に取っている。もちろん、「こんなはずじゃなかった」ということは往々にしてあるだろうが、それでも「市場は動くもの」という認識の中に収まっているはずである。しかし他の理由 – そしてまさにそれが弊社が存在する理由 – が存在する。たとえば仲介者リスク。何に投資をしているか教えてもらえない、どういう投資方針なのか分からない、事務手続きをお願いしても反応がない… これもれっきとしたリスクである。分からないことが多ければ多いほど、不安感は高まっていく。今起きていることの説明をきっちり聞いた上での下落と、何の説明もないままの下落とでは不安感に10倍の開きがあるだろう。市場リスク以外を知らずにとってしまうことにより、その投資に対するモチベーションは削られる。「投資をやめてしまいたい」という問い合わせは弊社もよく頂くが、よくよく聞いてみると経済的に困窮したりマーケットの行き先を暗く読んでいるからではない。やめてしまいたいのはその投資自体ではなく、その投資を仲介した業者との関係だったりするわけだ。
普段はそのリスクは顕在化しないが、マーケットが荒れたときに仲介者への不満が一気に爆発し投資をやめてしまいたくなる。これは人情としてよく理解できる。しかしその代償は安くない。なので、金融商品を購入するときは「仮に商品を仲介してくれた人がいなくなったとしても、自分でなんとか続けていけるか」が大切になる。リーマン・ショック後に海外投資を続けていけなかった投資たちは、リーマン・ショック自体よりも仲介業者が雲散霧消してしまったことが引き金になっていた。そういう意味で投資家として可能な限り自立していくことは自身の資産を守るための最良の投資となる。
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