夢見がちな株式市場にどう対峙していくか
「音楽が鳴り止まないかぎり、ダンスは止められない」
シティグループの元のCEOのプリンスはこう述べた。ダンスフロアで他の人が楽しく踊っているときに自分だけダンスをやめるわけにはいかない。これだけ聞くと全くその通りだと思えるが、この発言はリーマンショックの前年、不動産市場に暗雲が立ち込めはじめて幾つかの不動産ファンドが償還不能に陥ったときだった。不動産ファンドの不調がその後に続くリーマンショックの予兆となることは、当時ほとんどの人が予想しておらず世界の金融界のトップに君臨していたプリンスですら他の市井の投資家と同じく投資熱に踊らされていたのである。
誰か他の投資家が膨大なカネを稼いでいるときに、自分だけ指を加えてみているわけにはいかない、そしておそらくは(賢い自分なら)他の投資家を出し抜いて儲けることができる、ことを示唆したセリフだが今の時期ほどこのセリフを思い起こさせるものはない。前四半期につづき経済指標はなおも好調、しかし株価はそれを上回る勢いで伸びている。S&Pは最高値を更新、日経平均もバブル崩壊以降の高値をつけている。新聞では世界経済の好調を伝える見出しが踊り、株式市場にはカネが流れ込む。しかしインフレの兆候はみえず、長期金利は上昇せず、だからこそ借り入れリスクは低く、それがゆえにリスク許容度が高くなり、あふれたマネーが利回りを求めて株式市場に流れ込むという循環となっている。
インフレが一向に起こりそうにないのは日本だけでなく世界中で起こっている。来年2月で退任するイエレン連銀議長ですらも長期金利が上昇しない(すなわちインフレが上がってこない)理由について見極めるのが難しいと言っている。イエレン議長に分からないものが私どもに分かるはずはないが、長期金利が上がりにくい要因は2つある。まず1つは自社株買いにカネが回っていること。企業はカネを借りて次のビジネス機会に投資するための設備や雇用をつくるよりは自社株買いを行い、自社株の市場での需給を逼迫させて株価の釣り上げを狙っていること。大企業のCEOは株価が直接ボーナスと連動するから、息が長く先の見えないビジネスに投資するよりは手っ取り早く株価を吊り上げることを選ぶ。またそうすることを株主にも期待されている。そして2つめが企業の利益が労働者へ回らないこと。配当や内部留保にまわされて人手不足であるにもかかわらず給料があがりにくい。
この2つの要因でインフレが進みづらく、カネ余りがつづき、だぶついたマネーは株式などのリスク資産をめざし、表向き好景気に見える。まさに今音楽は鳴っている。音楽がいつ止まるかは分からない。当面続くかもしれないし、数ヶ月で鳴り止むかもしれない。しかし確実に言えることは、いずれ音楽は鳴り止むということだ。私たちができることは、鳴り止んだときにどう対処するかを今から考えておくことである。
弊社モデルポートフォリオについて
今回の推奨ポートフォリオでは、各リスクレベルに応じて債券の割合を5-10%増やした。株式と比較して債券こそ長期金利が上昇したさいに価格が毀損しやすいものであることは重々承知していはいる。しかし先にあげた2つの要因が構造改革などで抜本的に変わらないかぎり、長期金利はいっこうに上昇せず株式市場が崩れたときに向かうのは債券市場であると考える。
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