1年前の2018年初頭に、3つのことを申し上げた。
1. アメリカ株は日欧株に比べて割高、しかし経済のピークアウトは当分先
2. 昨年連銀が始めた利上げとQE縮小のトレンドは今年も変わらない
3. ボラティリティがとにかく低いから、この状態が普通だと思わないほうがいい
簡単に答え合わせをしておきたい。
1. について、アメリカ株は日欧株に比べてPER(株価収益率)割高ということは事実であったが、想定していたシナリオである連銀の利上げ→ドル高(すなわち円安、ユーロ安)→日欧の株式市場が米国よりもアウトパフォームするという展開は見られなかった。むしろ、
– 日銀が緩和策を縮小するという動きにより日本株が売られた
– ドイツ銀行など銀行系ヨーロッパ企業の利益率が下がり、ヨーロッパ株式も売られた
– 10月ごろからアメリカの景気減速が伝えられ、ドル高どころかドル安となり日欧株が売られた
という展開となった。日欧の株式は米国株式に遅れをとっている。

割高であるはずの米株式市場は底堅く、割安とまではいわないが日欧の株式市場はなかなか買われない展開となっている。
経済のピークアウトについては、「当分先」と書いていたがGDP成長率は明らかに昨年暮れから減速しつつある。数字上は2018年はGDPは昨年比よりもいいだろう。2019年はGDP成長率はプラスとなるものの、やや減速するとみている。
2. について、連銀が始めた利上げは2018年中結局4回行われた。また量的緩和(QE)も段階的に縮小され、景気の腰折れもなく、きちんとマーケットとコミュニケーションを取って乗り切ったパウエル連銀議長の手腕は評価されてもいい。
2019年は連銀が利上げの速度を緩めると見られており、利上げの頻度は3回あるいは2回になるのではにないかと見られている。このメールマガジンでも何度か指摘しているが、米連銀の仕事は物価の安定と雇用の安定の2つであり、市場の安定は入っていない。物価は2%前後で安定し、失業率は過去最低水準なので過去数ヶ月市場が荒れたからといっていきなり利上げがストップすることはない。
3. について、この状態が続かないとは思っていたが昨年10月からのボラティリティには肝を冷やした方が多かったのではなかろうか。積立投資が何たるかを理解している弊社のクライアントにとってはどこ吹く風であったろうが、証券会社や銀行に勧められるがままに様々な金融商品を保有してらっしゃる方は精神的に辛かったようだ。
残念なことに、私どもの見立てによると2019年も波乱含みの展開になる。
2019年の金融マーケット
今年、2018年の暮れと同じように金融市場が揺れると思う理由は複数ある。
1. 市場センチメント
金融市場においては法則などない。あるのは投資家の思惑だけである。ITバブルやビットコインのように、中身のないものに投資する一方、リーマン・ショック後の数多くの企業のように会社のすべての資産を売ってもまだ利益が出る水準になっても投資しなかったりする。投資家の思惑が一点にとどまることはなく、数年単位で振り子のように上下する。
2018年暮れまでは、ポジティブな空気が覆っていたがもはや投資家の気持ちは緩んではいない。かといって悲観的になっているわけでもない。悪いニュースが続けば、一気にセンチメントが悪くなる可能性がある。
2. 米中貿易戦争の質の変化
2月28日まで追加の関税はかけられないこととなっているが、当初は単純に中国の対米貿易黒字減らしが目的だった(と多くの投資家が考えていた)のが、トランプ政権はこの機会に徹底的に中国の勢いを削ごうとしている。すなわちこの貿易戦争は「貿易」に名を借りている次の覇権を握るための冷戦でもある。アメリカは国内経済を冷え込ませてでも中国の痛いところをつこうとしており、肉を切らせて骨を断つ、とでも言うべき戦略に出ている。
華為(ファーウェイ)やアリババのようなテック系巨人の台頭によって中国のIT業界は大いに盛り上がっていた。彼らの米国進出でかなりの雇用も生まれたことは違いない。米国経済は上向きなので、今のうちに対中国に対して強気でいつづけようという思惑なのだろう。
仮に2月28日までに何らかの結論が出るとしても、米中対立の構造が根本的に変わらない限り「貿易」なのか「IT」なのか、はたまた「軍事」なのかは分からないが衝突が続くことはほぼ間違いないとみてよい。そしてそれは世界経済の足を引っ張ることとなる。
3. 中国経済の鈍化
リーマン・ショック後10年続いたこの好景気だが、中国が 牽引したことは言うまでもない。中国の消費力なくして世界経済の復活はあり得なかったのだ。しかし、ここにきて本格的な景気の腰折れの兆候が見られる。具体的には購買担当者景気指数(PMI)のトレンドが今年に入ってから下降気味であること、債務の膨張が鈍化しつつあること、 不動産市場の需給だぶつきが北京や上海など一級都市にまで及んでいることだ。
景気が腰折れすると中国は緩和的な政策を取るが、米中貿易戦争という重しの上であるから経済の舵取りは大変に難しいだろう。また、中国が風邪をひくと中国経済に依存している東南アジアの国々は大きな影響をうける。
ポートフォリオ
よく「あのアナリストの予想は当たる」とか当たらない、という話を投資家がしているのを見聞きする。私達のような仕事の人間でも証券会社のアナリストの当たる、当たらないは気にする。が、もっとも大事なのは予測の精度をあげることよりは、シナリオを複数思いえがいておいてその準備をしておくことである。
引き続きポートフォリオはややリスクテイクする方向でいく。ただ全力でリスクを取りにいける場面ではないので、買っていく資産は選択的にならざるを得ない。