私どもを含め、世界中の市場関係者が驚いた。タカ派(緊縮派)だったパウエル連銀議長が様子見モードに入ったのだ。様子見とはすなわち、利上げ幅を縮小させることだ。つい数ヶ月前まで、ゴールドマン・サックスのエコノミストからは4回、他の投資銀行のレポートで最も少ない見立てでも2回の利上げであった。これは好調な経済に支えられて失業率も歴史的に最低水準となったことから数回の利上げが妥当だとする見立ては穏当のようにも思えた。また、米中貿易戦争もトランプ流の「プロレスごっこ」であってアメリカの貿易赤字の原因を叩いておけば保守層はなびき、次の選挙も戦いやすいだろうというくらいの楽観であった。
先月も同じお話をしたがプロレスごっこどころか文明の衝突の様相がさらに鮮明になっておりトランプ大統領は経済の開放を通じて米国流の自由という価値観を押し付けようとしている。中国における自由はアメリカのそれとずいぶん異なるが何より中国国民が成長のためにそれを甘受しているという事実がある。
思想対決となると、引き際が難しい。報道によるとトランプ大統領は関税を引き上げる3月1日の期限をさらに伸ばしてもいいとしているが、今回は玉虫色の解決をしたとしても貿易戦争の顔をした文明の衝突はいつでも起こりうるということになる。
中国の経済減速が明らかになってきて、米中というリーマン・ショック後の世界を牽引してきた経済エンジンの1つが失われつつある。同時にアメリカも中国の減速に引っ張られて減速していくだろう。トランプ大統領には「中国の景気が減速してもアメリカ経済が冷え込むリスクは少ない」と読んでいたに違いない。リーマン・ショック後に当時の麻生太郎首相が「ハチが刺した程度の影響はある」と発言し対岸の火事のような気楽さだったのを思い出すが、トランプ大統領も減税もしっかりしたし国内経済は絶好調で中国の減速なんて対岸の火事だったのだろう。
パウエル連銀議長はすばやくその連鎖反応を見抜き、利上げ停止をにおわせるような議事録を公開した。ただし利上げを見送るかわりに長期債券に傾きがちな連銀のバランスシートを調整しようとしている。長期債券を連銀が売りに出せば、それだけで長期債券市場が下落し(=金利は上昇し)利上げと同様の効果を得ることはできる。このバランスがまさに中央銀行の腕の見せ所だといえる。
とはいえ「連銀、利上げ停止」のニュースに投資家は反応しほとんど倒産しかけの会社でも急いで社債を発行しなんとか倒産を免れようとしている。特に中国では格付けの低い会社が相次いで社債を発行しジャンク債市場は沸いている。
中国景気の本格的な減速
対岸の火事では到底済まされないのが、中国経済の減速である。香港も先週農暦の正月であったが、中国の工場の停止期間が長引いているため旧正月自体もそれに合わせて伸びているという話も聞く。
この減速感は貿易戦争前からあったものだが、貿易戦争でより一層深刻になっている。日中貿易は日本経済にとっても非常に重要で、中国の景気減速が日本に波及し日本でも景況感が明らかに悪化するのも時間の問題といえる。日本はさらに今秋の消費税引き上げがあり、駆け込み需要を消化した後の景気の落ち込みも準備が必要となる。
ポートフォリオ
利上げが当分の間見送られそうだということで、ハイイールド債ファンドなどは一時跳ねる。ただそれを保有しておくかというと、景気サイクルの最後のほうに位置している現在はそこまでのリスクテイクは難しい。
数ヶ月目までは、底を買いにいけると考えて準備をしていたのに連銀の方向転換(緊縮的なものから緩和的)に変更したせいで景気サイクルが伸びてしまった。すなわち、現在のポートフォリオを継続する時間も同じく伸びるということになる。