米連銀は5月もさらなる利上げをするようだ。インフレは5%に落ち着きつつあるので、0.25%上昇させることでインフレ率と連銀の政策金利が釣り合うことになる。また、この政策金利引き上げのために信用収縮が起こるリスクを考えると、どうあがいても景気後退は避けられず早ければ今年度末にも景気後退が始まるだろう。 ところでシリコンバレー銀行は預金流出によって利上げによる短期資産売却で資本が欠損したことで破綻した。すなわち金利が上昇する局面では預金流出によってさらなる痛みが金融機関にもたらされるであろうことが予想される。 ただ今回は金融当局の迅速な動きによって金融不安は一瞬で緩和されたのもあって「次にどこかが破綻したとしても当局がなんとかしてくれるだろう」という楽観は漂っている。連銀は同じ問題に直面した銀行に対して短期ローンを組めばいいだけであり、リーマン・ショックのような血税を投入する話とは全く違う。 これをきっかけにアメリカの銀行では統廃合が進むだろうし、日本の金融機関も相当な債券の含み損を抱えているだろうから、アメリカと同じような取り付け騒ぎが起こる前に地銀の統廃合をすすめるかもしれない。 大きなニュースにはならなくとも、ひっそりとのれんを下ろす銀行が今後も増えそうだ。 |
しかし楽観的な金融市場 |
銀行の破綻、景気後退、ウクライナ戦争と悪い材料がほぼ出尽くしたこともあって市場は堅調に推移している。「噂で買って事実で売れ」という相場格言がある。どうなるか分からない(事実が確定しない)事象が発生するたび、市況は不安定になる。コロナしかりウクライナ戦争しかり。 「状況が落ち着くまで投資は控えよう」 これがもっとも典型的な個人投資家の思考方法だ。そして 「状況がわかってきたから投資を始めよう」 これが典型的な投資に失敗する人の行動パターンだ。自分が状況を理解したときにはすでに投資妙味は薄れている。そしてまた自分が理解できない下げ相場に狼狽して損失を確定させてしまうのだ。 事実が確定するのを待たずに噂で買わないと、マーケットインするチャンスは永久に失われ、事実で売らないと高値づかみしてしまう。自己資金をリスクに晒すのは勇気がいるが、その勇気の一番の出しどころは「蛮勇」と言われても仕方のないタイミングだということは忘れないでいただきたい。 |
【ポートフォリオ】 |
シリコンバレーバンクに続いてクレディ・スイスも破綻し吸収合併されたが、その後金融市場は落ち着いてきている。今回は米当局、そしてヨーロッパ当局の対応が非常に迅速だったこともありダラダラと投資家不安を煽るような展開は全くなかった。これが日本でなくて良かった… と思う今日このごろだ。 クレディ・スイスはCoCo債という利回りは高いものの政府介入があったら投資家に対する返済義務がないとするコベナンツ(特約)がついていたこともあり、スイス政府の介入によってこの特約のトリガーがひかれた格好となった。 リーマン・ショックの後にヨーロッパを中心にCoCo債が次々と発行され投資家には大人気であった。HSBCやドイツ銀行などグローバルバンクが利回り6%-9%と日本の投資家からみるとびっくりするような利回りを出すこともあり、売れに売れた。HSBCの永久債(満期がないもの)については額面100に対して140の価格がつく場面もあったほどだ。 これらCoCo債がプライベートバンクを通じて大量に販売され、富裕な投資家は小さい字で書かれた100ページにもわたるコベナンツについて確認したりはしなかっただろうから、クレディ・スイスの破綻で損害を被った投資家が肝を冷やしたであろうことは容易に想像できる。 日本のプライベートバンクでも、金太郎飴のようにどこもかしこもCoCo債を販売していた。私が知る限り、ポートフォリオ全体の半分、下手をすると100%がCoCo債で占められるようなポートフォリオが散見された。なぜプライベートバンクがそこまでCoCo債を熱心に販売していたかというと、富裕層の定番投資商品「不動産」よりも高い利回りを提示しないと投資金を不動産に振り向けられてしまうからだろう。 CoCo債は利回りは高いが正当な価格が分かりにくい。今回のクレディ・スイスのCoCo債だけでなく、すべてのCoCo債は分かりにくかったのだ。そういったものの正当なリスク評価ができなければ、私達は買わないしお客様にも買ってほしくはないと思う今日この頃だ。 前置きが長くなったが、ポートフォリオには変更がない。もし変更があるとすれば、利下げのタイミングでさらなるアクセルを踏むかどうかの判断となる。 |