前回の記事では、年利10%を期待することが非現実的である事を書きました。つまり、10%を期待して資産運用を始める事はギャンブルに他ならないという事です。
しかし、多くのオフショア投資セミナーでは、「最低利回り10%、更に複利で膨れ上がるから◯◯年後には◯◯倍に!」というような話をされています。その話のどこに間違いがあるか、少しずつ紐解いていきましょう。
複利は計算方法のひとつに過ぎない
複利という言葉を聞いたことがある人は多いと思います。複利に関しての詳しい説明はこちらの記事でも行いました。
今さら聞けない!?複利の効果の実際。そして毎月5万円30年間積み立てで1億になる話の真実
ここでもう一度簡単に解説しましょう。
複利と単利
複利の対義語に単利という言葉がありますが、単利の世界ではたとえば100万円投資をして年利10%の単利であれば、100万円の10%の10万円ずつ増えていくことになります。これが単利です。単利のグラフは年を経るにしたがって 10万円ずつ増えていくだけですから、直線的な右肩上がりとなります。
この単利に対して 複利とは、1年後110万円に対して10%の年利がありますからこの110万円に対して10%の11万円が2年目の利回りとなり、元利合計は121万円です。この複利のグラフは等比級数的な右肩上がりとなります。
単利・複利の違いはあなたが海外投資に加入するときによく聞かれたのではないでしょうか。もしかしたら以下のようなグラフで様々な利回りのシミュレーションを見せられたかもしれません。
おそらくそのシミュレーションでは契約終了時には元本が何倍にもなっているような、思わずニヤリとしてしまうような数字を見せられたのではないでしょうか。10%カタイんだったらたとえば15%だったら…など。
複利のグラフ通りに投資成果は上がらない
この複利の説明自体は間違っておりませんが、この爆発的な右肩上がりのグラフを単純に投資に当てはめるのは危険です。なぜなら、この複利のグラフのような単純な投資成果があがることはありえないからです。
そもそも複利というのは、”これから将来複利で増える”という言い方をするよりは”過去の成果を遡って計算すると複利でこうなる”というものです。
たとえば資産が100から150に5年間で増えた時に、単利計算だと年利10%、複利計算だと年利8.5%であった、といいます。すなわち複利計算とは発生した結果を計測するための一つの方法に過ぎません。
今後発生するであろう成果を強調するために”複利”をつかうのはまったくの誤りだとは言いませんが、株式ファンドや債券ファンドなど利回りが不確実なものに対して”将来複利で増えるから”という主旨で複利の考え方を用いることにはかなり違和感があります。
※株式市場は充分に長い期間さえとれば”複利的な考え方”、すなわち等比級数的に増えていくのが正しいのですが、ご自身の資産にこういった増え方を期待するのであれば、50年以上の期間を取らなければならないでしょう。ウォーレン・バフェットも”株式投資をしたら無人島にいけ”とアドバイスしています。しかし多くの方にはライフプランがありますので、そんなに長く投資期間を取ることが出来ません。
また、複利は必ずプラスの方向で働くものではありません。マイナス方向の複利も当然あり得ます。バブル崩壊後の日本の日経平均は38000台から7000台にまで下落しました。政府の経済政策の舵取りによって株式市場はマイナスにもなり得るのです。
このように、単に計算方法の一つにすぎない複利をあたかも海外投資全般に当てはめ、さらに”複利で増えていく”と理解していると実際に起こることのギャップにがっかりするでしょう。投資は実際には、単調な複利で増えていくことはあり得ず、去年はプラス10%だったけど今年はマイナス10%だった、ということが普通に起こります。
資産価格の上下は投資ではつきものですから単純な右肩上がりだけを信じないようにしましょう。期待する利回りについてより真実に近い理解としては
”株式などリスク資産は等比級数的に膨張しがちであるが、数年に1度バブルがはじけて急落を食らうこともある。ただし長い目で見れば7-8%の利回りが期待でき、手数料差引後で5%を目指す”
となります。この意味については次の記事「第3回:まずは5%を期待するべき理由」で説明します。
【オフショア積み立て投資で年利10%はカタイのか?シリーズ一覧】
第1回:年利の妥当な期待値
第2回:複利運用の誤解
第3回:まずは5%を期待するべき理由
第4回:本当にカタイものは0.05%程度