・ ウイルスの拡大は、それ自体では金融市場に大きな影響をもたらさない ・とはいえ、現在の高値水準がずっと続くわけではない SARSの爆発的拡大が起こったとき、経済へのインパクトは比較的小さなものにとどまったことは歴史が証明しているところだ。SARSは2003年に774人の犠牲者を出したが、その瞬間こそ中国そして香港で景気の収縮が起こったもののその年結果的にS&P500は20%上昇した。SARSによって深刻な影響を受けた香港でもその年すでに株式市場はもちろん不動産市場も持ち直している。 しかし今回のコロナウイルスでは様子が少し違う。コロナウイルスが拡大する前からグローバル経済は弱含みしており、景気サイクルの最後のほうに入っていると見られていたがウイルスがきっかけでそのサイクルの終焉がさらに間近に迫ることになるかしれない。米国株式市場は最高値をつけていたのだから、何らかの反転エネルギーが働くことは容易に想像できる。 コロナウイルスは現在25カ国に伝播しており、執筆時点で1300人の死者そして6万人の感染者を出している。この現在の急激な拡大のペースがスローダウンしていくのを見届けるまで、投資家のリスクオフムードは変わらないかもしれない。私どもをふくめて投資家は今のところコロナウイルスの市場への影響を過去と同様に見積もっている。すなわち「コロナウイルス単体で経済の勢いを殺せるほどではない」という見立てだ。ただ、ウイルスがもたらす本当の影響、お店が閉じたりして売上が減少し信用状況が悪化するこまでもまだ折りこんではいない。アメリカの連銀も中国の人民銀行も相次いで利下げを行っているせいで、コロナウイルスによる企業のデフォルトリスクがある程度隠されているからだ。 中国経済にはタイミングが悪かった 中国は今や世界第にの経済大国で、中国で起きたことは世界にすぐに波及する。コロナウイルスが発生する直前、中国は過去29年間で最悪の経済成長となることが発表されていた。これには米中貿易戦争、膨張する債務、伸びない出生率、高齢化などが原因だ。中国はそもそもコロナウイルス級のインパクトに耐えられる余力がなかったといっていい。ナイキ、アディダス、スターバックス、アップルなどのメジャーな小売業は軒並み店じまいし、24の航空会社が中国行きのフライトを見合わせている。これは明らかに中国経済にとって大きなダメージとなる。 米国経済にとってもタイミングが悪い 2003年のSARSの際には米国はようやくドットコムバブル崩壊による景気後退から抜け出そうとするところだった。そして全世界の経済に占める中国の割合は現在よりも少なかったため米国経済にとってSARSはどうでもいいことだった。 しかし現在米国は史上最長の景気拡大に入っており、何らかのショックがあればその成長は急激にしぼむかもしれないと投資家は考えている。通常、景気縮小のサイクルでは過剰なものが整理され富が再分配されることで次の成長の息吹となるわけだが、中央銀行が人為的な景気の膨らませ方をしている現在、この息吹は訪れないことになる。 長短の金利差を表すイールドカーブでは、すでに昨年夏から逆転現象が起きており景気後退するのではないかとささやかれてきた。そしてそこから3回の金利切り下げ、また米国債買い入れプログラムを経て景気後退の懸念は払拭されようとしていた。 しかしここ数週間でまたイールドカーブが逆転しつつある。これはリーマン・ショック前に見られた現象と同じだ。 |
ポートフォリオ
現在、世界の株式市場の時価総額の半分以上を占める米国株式市場はの時価総額は米国経済の157%に達している。狂乱のドットコムバブルのときですら150%、リーマン・ショック前で110%という水準だ。ITバブルのときに「なんとかドットコム」とついただけで業務内容がITに関係なくともべらぼうな時価総額となったことを記憶されている方も多いと思うが、現在の水準はそれ以上にイカレているともいえよう。 コロナウイルス単体では経済に大きなダメージをもたらすものではないが、それが引き起こす信用収縮や景気の鈍化の度合いを見極めながらポートフォリオを調整していきたい。 |