ミンスキーモーメント、という言葉がチラホラ見られるようになってきた。ミンスキーモーメントとは、金余りで生じた過剰な設備投資や投機的な金融投資がストップし、資産価値の急低下が起こる転換点のことだ。
バブル発生から金融危機までを1つのサイクルとみたとき、当初は「健全な借り入れ」から始まりその後「投機的な金融投資」そして最後には「ポンジ・スキーム」にいたるということをチューリップバブルやアメリカの大恐慌、そしてITバブルやリーマンショックなどすべての場合に当てはまる。またすべてのバブル崩壊には「借金」が関係する。
最初の健全な借り入れとは、対象資産から生じる利益が金利支払いを上回る場合だ。たとえばマンション投資でいうと、毎月の家賃が金利支払いを上回っている場合だ。次の「投機的な金融投資」では、将来の価格上昇を見越して買う場合だ。得られる家賃よりも金利支払いの場合が高くなる。そして最後は価格上昇に目をくらんだ人たちを対象にして詐欺的な手法で資金を集める場合だ。
ITバブル、リーマンショックは投機的金融にあたり、バーナード・マドフや先日破綻した仮想通貨取引所のFTXがポンジ・スキームに該当するだろう。
投資家がミンスキーモーメントを言い始めている理由は簡単だ。どちらかというとゼロゼロ融資(ゼロ金利ゼロ担保の融資)の問題と似ている。コロナで、これだけ世界中で財政支出が行われているなかで、インフレ抑制のために金利が上昇したとき、どんな悪いことが起こるのだろう… という感覚だ。
東京都内の不動産は、もし日銀のイールドカーブ・コントロールが終了して金利が上昇する期待があるにも関わらずまだ価格上昇の期待が高い。すなわち健全な借り入れから投機的な金融投資に向かっているともいえる。
では、今後すぐにミンスキーモーメントがやってくるか。私どもはそうは考えていない。ITバブルやリーマンショック前のバブルを知っている自分たちからすると、ミンスキーモーメントが来るためにはもっと世界が浮かれてなければならないし、財布のひもがゆるくなっていなければならない。すなわちお祭り騒ぎのような状態がまだまだ足りない。ミンスキーモーメントが来るのはしばらく先になるのではないかと考えている。
急激な円安・円高はどこへ向かうのか
インフレが沈静化してきたことで、「米国の利上げサイクルがそろそろ終わる」すなわち次は利下げへの期待が高まる。それはすなわち金利差を目的とした円売りドル買いがおさまるためドル売り円買いが始まるきっかけにもなる。
事実、一時145円まで上昇したドルがわずか1週間で137円まで急降下するという騰落だ。ただ、先ほども述べたとおりインフレが今後、連銀がターゲットにしている2%の範囲内におさまる保証はどこにもなく、むしろ3-4%台で高止まりする可能性が濃厚だ。
グローバルサプライチェーンが分断され、しかも中国はじめ東南アジアでの賃金が上昇している以上インフレ傾向が当面続くとみてよい。しかも賃金が上がらないなかでのインフレなので実質賃金は下落しており、それがために消費にまわす力がないことを意味する。
また本質的に、誰が円を買うのか=誰が日本の成長性に期待するのかを考えたときに、なかなか持続的に円高になることは考えにくい。すなわち日本の成長に大いなる期待が、海外から寄せられるとき持続的な円高が達成されるが、それまでは投機的に行ったり来たりするだけだろう。
私どももおそらく千人以上の会話を重ねてきたが、なぜか日本の投資家は状況を固定的に考えてる方が多い。すなわち「日本はダメだ、だからずっと円安が続くだろう」とか「アメリカは移民政策をとっている。だから消費は今後も盤石だろう」とか、1つの要因がすべてを決定するかのような見方をする方が多い。軽座はそれよりはずっと複雑であり、またその複雑な経済を反映する金融はさらに複雑だ。
この固定的な考えのもと「中国がこれからは世界の覇者だ」と中国で銀行預金を作ったり中国の不動産を買ったりすることが10-20年前流行したが、今どうなっているか。預金を日本に引き上げたくとも外貨規制のせいで引き上げられなくなっている。いつの時代でも投資する際は流動性(そもそもその資産はすぐに売却できるか、売却した資金を手元に戻せるか)を考えておきたい。
ポートフォリオ
金利上昇サイクルが終わりつつあり、金利が今後下げサイクルに入っていけば債券が魅力的となる。今後数ヶ月で、債券の割合をあげていこうと考えている。