世界インフレの謎という本を読んで、金融市場に感じていることの違和感が解消されたので共有したい。感じていた違和感が、「今回のインフレが利上げによって果たして収まるのか」という疑問だ。セオリーからすると、インフレが進めば景気加熱を抑えるため利上げをする。 ちなみに先日アメリカの1月のインフレ率が発表され、その伸びが狭まってきていることからインフレは落ち着きつつあるとみてよい。とはいえ6%を超えるインフレ率は、連銀がターゲットとしていた2%のインフレから大幅に乖離しており、それがために利上げを継続しなければいけない状況だ。 この本の中での主張は、そもそもこのインフレの原因が需要が引っ張るインフレではなくコロナが起こした供給側が原因のインフレであるため需要を冷ますための利上げがほとんど意味をなさないのではないかというものだ。 すなわち、世界中の人が財やサービスを取りあうことで起こるインフレであれば、レバレッジを膨らませないために金利を上げるのは理にかなっているものの物流の混乱などでそもそも「モノが作れない」状態で特にレバレッジもかかっておらず需要が一定の場合におこるインフレに対しては利上げは景気減退を招くだけであるという。こういう供給不足によるインフレは近代金融市場では経験したことがなく 供給不足が原因であるので、むしろ設備投資を促したり雇用がしやすいような環境を整えたりするのが先であって、旺盛ではない需要を細らせたところで全体のパイが減る。 パイが減れば需要と供給は均衡しインフレは起こらなくなるだろうが、それはすなわち毎日3食白米を食べていた人が2食になるだけで全体の分量を減らすという愚策にしか過ぎない。3食食べるという平凡な食欲をなにかで押さえつけたところでそれはヘルシーな状態ではないのだ。 ロシアウクライナ戦争が始まる前からインフレは始まっていた、とこの本は指摘していて戦争がインフレを助長はしたものの、インフレの引き金をひいたとの見方を一蹴している。インフレは戦争の副産物ではなく構造的な問題なのだ。 この仮説が正しければ、この構造的な問題を解決しない限りインフレは収まらないことになる。今後予想される展開としては、インフレを抑制するのに金利の上げ下げの手段しか持たない連銀がなおも金利を上げ続けた結果、需要が足りなくなり景気後退となる。すなわち全体のパイが小さくったところで受給がバランスしインフレが収まる。 「インフレが利上げで収まるか」という点について、そもそもこのインフレが需要側の過熱ではないことが明示され景気後退を伴いながらインフレが収束するであろうことがこの本では指摘されていた。インフレはいずれ収束するだろうが、景気後退という痛みが伴う。景気後退をさせずにこのインフレを収束させるにはどうすればいいか、だが利上げ幅をできるだけ小さくして供給側を正常状態に戻すしかない。 ちなみにこの本は日本への影響も指摘されている。日本はとかく我慢強いので、企業は価格をあげられない。したがって給料もあがらない。しかし世界平均から比べるとマシとはいえインフレは関係なく進んでいるのでいずれ日本の実質購買力は現在進行で下落ている。 デフレは現象ではなく、デフレマインドという言葉にあるようにマインドの問題だ。すなわち「これまでも価格が上昇しなかったから今後も上昇しないだろう(=だからこそ様々な選択肢を比較して最安を買おう)」というマインドだ。しかし日本でも状況は変わりつつあり、値段が高くなっても他の選択肢を検討しないという割合が増えているという。すなわち「この店の価格が上がったなら他の店の価格も同じく上昇しているだろう(=だから価格についてもシビアになる必要はない)」というインフレマインドに変わりつつあるそうだ。 マインドが変わっても給料が上がらなければ価格選好は同じのままだから、何十年も変わらなかった賃金を企業がどれだけ上げられるかにかかっている。すなわち企業の側に、デフレマインドを終わらせるカギがあるという。 それでいうと、個人というよりは企業のデフレマインド(昇給をしない)の改善はカギとなるが、この企業の行動を促すのは相当ハードルが高いだろう。 |
【ポートフォリオ】 |
景気後退があるから即株価下落とはならないものの、上値は重い。この1-2年で積立を積立資金を全部引き上げたい… というような方は時期をもう少し後にずらす方策が取れるとベターかもしれない。 |