先日、連銀が利上げをストップしたことで世界の金融市場はそれをポジティブに評価した。実際に株価も上昇し債券価格も上昇、昨年末のような引き締めモードからくる悲壮感は拭い去られた。しかし連銀が利上げをストップしたことで、好調に見えている経済に何が起こっているのかがますます分かりにくくなった。
そして弊社のポートフォリオも完全にディフェンシブにするのではなくまだまだアグレッシブなままにしてあるため弊社のクライアントからもその件についてお問い合わせ頂くことが増えた。ここでまとめて弊社の経済に対する見立てを記しておきたいと思う。
# 景気サイクルを運用にどの程度取り入れているか
「景気サイクル」とは、1つの不況から次の不況までを1つのサイクルとしてみた場合に今どの位置にあるのか、という指標のことだ。不況が訪れると金融緩和や財政緩和を通じて景気浮揚策が実行されて景気が良くなる。景気がどんどん拡大し、人々はかつての不景気のことを忘れ借金を重ねる。借金が返せなくなったピークで信用の巻き戻し、すなわち銀行の貸し渋りや貸しはがしが行われまた不景気に突入する。この景気サイクルを採用することで行き当たりばったりな運用ではなくなり、長期保有を前提としたポートフォリオとなる。
リーマンショックで連銀は急いで金利を下げ、それだけでは足らずに量的緩和を実行した。それがここまでのサイクルだ。
もちろん弊社ではこの景気サイクルによる景気変動モデルを採用している。もっとも、今は景気のどの位置にあるのかを完全に言い当てることはできないが、もはや景気拡大局面ではなく成長率は鈍化していることを考えると次の景気縮小に向けてどう準備していくかに頭を絞っているところである。
# 連銀の利上げが止まったというのはどういう意味を持つのか
連銀連銀と私ども運用業界の人間が気にするのは、今や米国経済は世界経済と密接につながっており、連銀が利上げをするせいで企業が倒産し失業者が増え所得水準が減り景気が悪くなるかもしれないからだ。
特に中国では米ドル建てで調達している企業がたくさんある。人民元よりも米ドルのほうが需要があるので、少ない利払いで資金調達できる。今、中国の経済状況は急速に冷え込みつつあるが、これはもう次の不景気には世界は中国に景気を牽引してもらえないかもしれないことを意味する。
利上げを止めるということは世界の企業にとっては前向きなことである。世界の企業にとって前向きなことは、世界経済にとって前向きなことだ。だから連銀の金利は特に重要だ。連銀が世界経済のレバーを握っているといっても過言ではない。
ただ金利は止めても連銀がしこたま買い込んだ米国債や社債は市場にて売却していくと宣言している。すなわち、市場に債券がダブつくこととなれば金利は上昇することになり、利上げをしたことと同じこととなる。この場合、もちろん企業の借入金利は上昇することとなるので「利上げがストップした」と手放しに喜んでいるわけにはいかない。
# 米中貿易戦争はどうなるのか
トランプが関税25%の期限を事実上撤廃してしまったことで、ますます落とし所が分からなくなった。ただ再選を目指すトランプにとってはロシア疑惑と米中貿易戦争による米国内の農家への悪影響などで窮地に立たされている。トランプ自身にもこの貿易戦争の落とし所が見えてないのではないか。
逆に中国は貿易戦争による負のインパクトを最小限に抑えるために税金の引き下げや金利の引き下げを矢継早におこなった。もはや中国の成長率が6%を超えるというのは誰も信じていないが、それでもこれ以上中国経済が悪くなることは誰も望んではいない。
そもそも中国は計画経済の国で、不良債権が出にくい(というより出せない)構造になっている。銀行や国営企業のトップは中国共産党員だが、もし銀行がそれらの業績のよくない企業の債券を不良債権としてカテゴライズしてしまうとそれだけで命の危険が及ぶ可能性もある。中国は共産党の安定を脅かすものはすべて悪なので、資本主義的な死 = 倒産が起こりづらく、銀行は業績の悪い企業については追加融資しか選択肢はない。
その矛盾が一気に出てきている。もっともこれは貿易戦争が原因というよりはもっと以前からある構造的な問題ではある。「加重の臨界点では、丈夫ならくだの背中でも一本のわらを乗せたら折れる」という中東のことわざがあるが、中国の状況はまさにそれに近づきつつあるだろう。