中国不動産大手の中国恒大(Evergrande)が債券利払いの遅延をしたことで、事実上恒大はデフォルトした。日本のメディアは「すわ、中国不動産バブルが弾けたか」というような論調で報道しているが、私どもの所見としては「恒大のデフォルトは短期的にはそこまで大きな影響はないものの、長期的には大きな影響がある」と考えている。
まず短期的な影響について。
まず、デフォルトという言葉の定義。デフォルトと聞いて、英語が達者な方であれば破産とか倒産という日本語訳を思いつくため、悲惨な状況を思い浮かべるかもしれない。それがために恒大だけでなく中国に対して極端にネガティブなイメージを持ってしまいがちだが、実態はそうではない。
だが債券の利払いを一度でも遅滞すると格付け会社が「デフォルト」という扱いにする。スタンダード・アンド・プアーズやフィッチなどの格付け機関はそもそも一般の債券投資家に対して投資の指標を与えることが仕事だ。債券投資に関しては通常、一般投資家が知り得る情報が少ない。そこで格付け機関はそういった投資家のためにガイドとなる格付け(A+とかBB-)を与える。債券を発行している財務の健全性とその債券に投資をすることがどれくらい安全か、あるいは危険かのガイドを与える。
しかし利払いが遅れているような危険な会社に良い格付けを与えることは当然できないから、デフォルトとする。デフォルト認定したからといって会社がすぐに倒産するわけではない。恒大がまさに今行っているように、恒大が保有する様々な資産(不動産だけでなく子会社の株式など)を切り売りして債務の返済を行う。
デフォルト認定と、恒大に貸したカネがまったく戻ってこない状態になるというのは別なのだ。全世界の金融情報を集約するBloombergの端末をみると、今年満期を迎える恒大の債券は額面100に対して40前後で取引されている。これはすなわち、恒大ほど巨額の債務を抱えていたとしても、一分の投資家はまだ返済される望みを捨てていないことになる。リーマン・ブラザーズが破綻する直前は、額面100に対して取引価格が1前後であったから当時のリーマン・ブラザーズのインパクトのほうがはるかに大きかったということになる。すなわち投資家は「恒大はまだリーマン・ブラザーズよりまし」と考えていることになる。
今後も大企業であってもデフォルトは起こり続けるが、これに過剰反応をしないことが大事だ。
中国政府は恒大の持っている資産を地方政府、あるいは他のデベロッパーが買い取ることで恒大の財務を下支えすることが予想されている。すなわち建設途中の不動産は誰かが買い取って引き続き建設する。ただしその買取価格は安いものになるだろうけれど。また恒大が販売していた自社の理財商品については、おそらく額面20-30%くらいを返還して終わりにするのではないか。理財商品を購入している層はどちらにしろお金持ち。金持ちを助ける動機がないのが現在の習近平なので、恒大から家を買った人と恒大から理財商品を買った人では扱いは区別されるのが穏当だろう。
またデベロッパーの借入を抑制する総量規制は今に始まったことではなく昨年の夏からすでに開始されていた。恒大の株価は昨年夏以降ジリ貧である。なので今回のデフォルトは突如降って湧いた災難ではない。したがって当局が何の準備もしていないとは考えられない。
中国の資本市場の長期的な影響
恒大問題は予測できていた。恒大の株価は1年前から比較してジリ貧であったし、総量規制自体昨年8月に発表されていたから特に驚きはない
問題は、中国政府が、習近平政権が鶴の一声で企業の生死を決めてしまえることにある。恒大はこれから様々な資産を切り売りしつつ破滅的な倒産の仕方はしないしできないだろう。それは秩序あるデレバレッジを習近平政権が志向しているからであって、恒大がどうしたいかは関係がない。
私たちが中国に投資をするとき、無意識に「人工ボーナスがまだ続いている」「成長スピードが早い」と考えがちだが、今回の問題はそういった中国投資の見方を根本的に変えるものとなろう。
ポートフォリオ
恒大問題が世界的なシステミックリスクにつながらない以上、ポートフォリオに対する考え方を変えるものではない。むしろインフレ気味の世界で、連銀が緊縮・利上げの方向で動いていることのほうがよほどインパクトがあろう。