数ヶ月前のニュースレターで「円高がいずれくる」と書いた。現在の円高局面によって「どうして円高になることが予想できたのか?」と聞かれることがあったので回答しておく。 当時はドル円が150円を突破し、識者による「いずれ170円も」というようなニュースのヘッドラインが世間を騒がせていたところだ。この円高を私どもが予想していたか。これは予想していた。では日銀が長期金利の変動幅を上昇させるというシナリオで円高になることを予想していたか。これは否である。私どもIFAが予想していたのは、インフレがある時点で収束するのは当然であるから(インフレが永久に続くわけがない)、ある程度の上昇幅が収まったらアメリカの連銀の利上げシナリオに歯止めがかかる。そうすると、アメリカの利上げにともなう円安ドル高はどこかで落ち着かざるをえないという、誰にでも予想できることをしていたに過ぎない。 だいたい、極端な意見が出始めるとそこから反転する。これは私ども金融市場に20年以上いた人間のみならず、世の中をつぶさに観察していればなんとなく肌感がついてくる。極端な事象、統計上の外れ値になるような事象はめったに起こらない。ニコラス・タレブの名著「ブラック・スワン – 不確実性とリスクの本質」にもこの記述が繰り返しでてくる。もっとも、ブラック・スワンでは「めったに起こらないが時々起こる」と書いているので、その時にどう立ち回るかはまた別問題なのだが。しかしどちらにしろ経済評論家や私どもアドバイザーの「予測」は当たらない。予測らしいことを言っているのであれば、それは予測ではなく単なる事実を述べているか、あるいは何か別の動機(この金融商品を買ってほしい、とか)があるときだ。 弊社のクライアントには、「金融のプロ」の市場予測は聞かないようにしていただきたいものである。 |
インフレに勝ったアメリカ |
インフレ数値が落ち着いてきている。アメリカの消費者物価は前月比で0.1%の上昇幅となり、2020年4月以来最小の上昇率となった。ガソリン価格が急落していることが大きく貢献している。 不思議なもので、インフレとは物価が上昇したかどうかの指標ではあるが、実際には人々が「インフレが起こるのではないか」と予測しているかどうかの指標でもある。物価が今後上昇すると多くの人が考えればそれがインフレの原因となるので、物価が実際に上昇したかどうかよりも、人々が今後も「物価が上昇する」と考えていれば需給ギャップとは別のところでインフレが実際に起こる。 期待インフレ率が実際のインフレに影響するというのは「フィリップス曲線」で表され、実際に連銀などの政策当局者はフィリップス曲線を出発点として金融政策を決定している。今回のインフレは需要が高まったからではなく、ましてやウクライナ戦争でロシアがオイルとガスの栓を閉じたからではなく、需要に対する供給が減ったことによるものであると結論付けられつつあるが、利上げによってさらに需要を減じ景気後退リスクをとってでも連銀はインフレを抑え込まなければいけなかった。今回の利上げで何が犠牲になったかというと、アメリカ人の仕事だろう。景気後退に備えてITも金融も、凄まじい勢いで解雇を行っている。今年はそれがさらに加速するだろう。コロナは結局、国の借金を膨大に増やした上に失業をもたらした。 |
日本はどうなるのか |
対岸の火事ではないことは明白だが、今後日本はどうなるのか。東京の物価上昇率は3%を超えて12月には4%上昇したが、それを抑え込むために政策金利を上昇させることはできるのか。もちろんできない。長期金利の変動幅を0.25%認めただけで蜂の巣をつついたような騒ぎである。日銀は早速、4.6兆円という史上最大規模の国債買い入れを行い市場を沈静化させようとしている。日銀そして日本の法人・個人が日本国債の保有者であることから、単なる需給関係で急激に金利が上昇するとは考えられない。 しかし続々と商品の値上げが発表され、そしてまた価格硬直性が商品(モノ)よりも高いサービスも商品に続いて上昇トレンドに乗るだろう。したがって日本の物価上昇はまだ始まったところだ。 それもあってインフレ率は2%を恒常的に超える状態となることが予想される。日銀はこの2%を目標に緩和政策を頑張ってきたわけだが、これは明らかに日銀が思い描く物価上昇の姿ではない。総需要がわずかにしか増えず、固定費上昇分を価格に転嫁できる企業とそうでない企業がはっきりと分かれ、そうでない企業は倒産していき失業率が増えるだろう。 金融市場でいうと、借り入れの大きい起業(たとえばソフトバンクなど)は株価に影響するだろうし、セクターでいうと住宅やクルマなど金利動向に左右される企業の株式は今後しばらくは厳しいだろう。 アメリカで起こりつつあるこの流れが6-12ヶ月の時間差で日本に来ることが考えられる。失業率が増え、しかもインフレが高い状態となっているときに日銀はアメリカのように利上げを決断できるだろうか。個人的には興味があるところだ。 |
【ポートフォリオ】 |
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