シリコンバレー銀行を皮切りに、シグネチャー銀行、ファーストリパブリック銀行と相次いで破綻している。これらすべてに共通することが、ALM(Asset Liability Management)の失敗だ。預金が増えると、その裏付けとして銀行は米国債を買う必要がある。金利が低いときに購入した高い価格の債券が、預金の流出とともに高い金利の債券として売却せねばならず損失が膨らんだ形だ。 リーマンショックのような幾重にもレバレッジがかかった合成証券が破綻するというものではなくALMの失敗はどちらかというとクラシックな問題である。2007年のノーザン・ロック銀行や、1995年のベアリング銀行の破綻は銀行資産の損失をカバーできるような体制でなかったという意味で、これまで何度も繰り返されてきた同根の問題である。ノーザン・ロックもベアリングも当時はバーゼル3のような国際銀行に課される預金の積み増しなどなかったのでインパクトは大きかった。しかし現在はバーゼル3によって資本は積み増され、金融当局はしっかりと問題に対処できている。 クラシックな問題に、SNSなど現代的な要素が加わってスピードで破綻しただけの話であって、同じスピードで当局は預金保護を発表しているので金融不安を引き起こすほどのインパクトには至らない。 今後もいくつか銀行破綻が出てくるだろうが、金融システムにおける核弾頭のような存在ではない。むしろ増えすぎた地銀を統合できて監督官庁はほくそ笑んでいるのではなかろうか。日本のように低金利政策で地銀が真綿で締め上げられているような状況と違って、むしろサクッと銀行が破綻したほうが銀行も預金者も苦しまなくて良い。 どちらかというと、何度も繰り返されてきたアメリカの債務上限問題やウクライナの反転攻勢のほうが金融市場には影響を与えている。アメリカの債務上限問題、これを何回やれば気が済むのだろうと失礼ながら思ってしまうのだがアメリカは日本のように債務限度が青天井ではなく上限があるのだから仕方がない。2011年にも同じ問題があり、その時の市場の動揺を知っている身としてはこの混乱に乗じて一儲けしたいくらいである。(とはいえファンドの売買はスプレッドが取られるので投機的な売買はしない) またウクライナの反転攻勢によってもしロシアが核を使うようなことがあればNATOが本格的にロシアに対して攻撃する。攻撃の応酬となるか、あるいは和平を優先するか。そこからの世界の混沌はちょっと想像できない。インフレが落ち着いているのに金価格だけは高止まりしているのはそういう理由だろう。 金融市場にいるマネーは臆病者である。ちょっとした事件でも市場から逃げていく。ニュースもそれを大々的に報じるので、よりそのバイアスが強くなっていく。しかし市場を大きく動かすのは「信用の巻き戻し」であり、戦争やオリンピックではない。誰かが借金を返せなくなったり、そのせいで資産を安値で売らなきゃいけなくなったりする現象が続きそうであれば個人投資家としては警戒感を強めるべきだ。 では銀行の破綻は信用の巻き戻しを生むだろうか。いくらかは生むだろう。ファーストリパブリック銀行がJPモルガンに買収されたが、たとえばファーストリパブリック銀行からカネを借りていた預金者は買収先のJPモルガンでも同じ金利で狩り続けられるとは限らない。むしろJPモルガンは買収コストを吸収するために金利を上げたりするだろう。しかしそれがすぐに巨大な信用の巻き戻しにはつながるわけではない。あくまで影響範囲は破綻銀行の顧客にとどまるからだ。 債務上限問題はどうだろう。債務が増やせないということは公務員の給与を支払えないということになる。給与を支払えなければ公務員は生活が苦しいから資産を投げ売りするかもしれない。また米国債がデフォルトするということは世界で一番安全な資産が安全でないということになり、債券市場に激震が走る。もちろん株式市場も暴落し、これまで信用で買っていた投資家が一気に市場から退場し、ますます金融市場は悪化する。実経済に対する影響も甚大なものになるだろう。 なので債務上限問題が解決されなければ、金融市場には甚大な影響が及ぶ。ただし、共和党も民主党もそれはよく分かっているのでチキンレースとして高みの見物を決め込んでいればよい。どちらの政党も債務上限問題を解決したくないわけではなく、来年の大統領選挙に向けての材料が欲しいだけなのでどこかで妥協するだろう。ちなみにアメリカは1月からすでに債務上限に達している。金融市場でのカオスが発生したら、私どもとしては絶好の買い場だと考える。債務上限問題は政治的な問題であり、対話で解決されるという意味において信用の巻き戻しを止められるからだ。 ではウクライナ戦争はどうだろう。信用の巻き戻しを発生させるだろうか。仮にロシアがデフォルトに陥ったとしても、ロシア国債を買っている投資家はそもそも少ない(昨年ロシア国債はデフォルトもどきになったが、潜在的デフォルトと認定されただけで完全にデフォルトしたわけではない)。戦争は人命を奪うという点では最低最悪の出来事だが、信用の巻き戻しが発生するかという一点でみると「場合による」のだ。 |
【ポートフォリオ】 |
もし債務上限問題が解決されず、ずるずると問題が先送りされれば金融市場はカオスとなる。積立投資は特に問題ないものの、一括投資は一時的にへこむことは覚悟せねばならない。しかしもし手元に余裕資金があるのであれば買い場だ。 |