中国が1米ドル7人民元の壁を人為的に突破させ、人民元安としたことに対してアメリカはすぐさま「為替操作国」認定をした。アメリカはこれまで中国を為替操作国と認定したことはなく、この一連の流れは貿易戦争の落とし所がますます見えなくなってきたことを意味する。 もともと米中貿易戦争の発端は中国が人為的に為替を安くして輸出企業を増長させアメリカから中国への輸入品を高くし(とアメリカが思い込んでいる)ており、巨額の貿易赤字が発生していることが原因だからいまさら中国が人民元を操作したところで大勢には影響がないとも思える。 しかし為替操作は今までトランプへ譲歩していた中国がここにきて一気に態度を硬化させたことを意味する。すなわち中国は「トランプはどうせ次の大統領選挙で落選するだろうから、それまで我慢」としてきたのが「トランプが勝とうが負けようが、長期化する貿易戦争を戦い抜く覚悟」を持ったことになる。またそれに付随して中国国内のさらなる利下げ、補助金など貿易戦争で被害を被っている法人が雇用を減らし、国内政情不安につながらないよう配慮している。またトランプが最も欲しがっているトランプの選挙基盤からの農作物購入をストップする、とわざわざ宣言した。 中国は対アメリカでは輸出超過なので、トランプが関税を10%にしたから同額を10%に、20%にしたから20%にと関税をバランスさせることはできない。しかし今回分かったことは中国は仮に関税をバランスさせられなくとも、為替の操作で関税分を帳消しにできるということだ。 それに習近平は「大長征」という言葉を使って、中国人を気持ちの上で結束させようとしている。また少なくともオンライン上では彼らの「西欧にやられっぱなしだった不遇な100年」の怨念を晴らそうと結束しているようにも思える。 今後は 利下げ→株式・債券などの資産価格が上昇→さらに関税→景気悪化→利下げ の循環が、アメリカか中国が根負けするまで続くことになりそうだ。利下げが行われるが目下経済成長率は鈍化しているので色良くない景気指標がいくつか出てくると下げ圧力が一層高まるということが考えられそうだ。 現在の水準でもそこそこ高いボラティリティとなっているが、積立投資においてボラティリティは敵ではなく味方であるので、市場環境に一喜一憂されないようにしていただきたい。 |
そしてまた円高に向かう? |
リーマンショック後の2011年、円が75円まで急伸したことは若い方ならもう知らないかもしれない。ちなみにリーマンショック直前は140円まで売られこもうとしていた。たかだか数年で円は倍くらい高くなったことになる。 円ドルが動く要因はかつては金利に即したものだった。日銀の積極的な緩和策により日米の金利水準に大きな差があり、円を売ってドルを買ういわゆる「キャリートレード」が主流となった。為替証拠金取引(FX)で小口投資家がなだれこんだのも「借金が多く経済が悪い日本はずっと低金利で、経済が好調で人口も増えている米国との差はますます開いていくばかり」というストーリーが素直に信じられていたからだ。 しかし結果として、そういったマクロの話が理詰めでマーケットを動かすわけではなくリーマンショック後の「米ドルの基軸性が失われる」といった恐怖がマーケットを支配し買われまくった。結局、個人投資家はふっ飛ばされ借金だけが残ったという人も少なくなかったろう。 当時の麻生内閣はリーマンショックのインパクトを見誤り、為替については無策だったが今は違う。円高は輸出企業の利益に悪影響を与えるという理由でまずは口先介入、そして実際の円売り介入と実施するシナリオがもう出来ている。 105円、100円と5円刻みごとに心理線すなわち投資家が注視する線となるわけだが、リーマンショックの時と違って今回は秋に増税を控えている。日本では消費税が上がるごとに駆け込み需要を先取りするせいでその後景気が鈍化する。そこに円高が加われば日本経済は今後ずっと「失われる」こととなってしまう。 なので今回は政府ならびに日銀はかなり円ドル水準に神経をとがらせているはずだ。リーマンショック後のような、一方的に円高に向かう局面が訪れる可能性は低いだろう。 ※本記事は、毎月発行の弊社メルマガに掲載しているものです。メルマガにご登録頂くと最新のマーケット情報を毎月お届けします。 |