ダウ平均は700ポイント以上下落した。債券市場は高い格付けの米国債が買われ値をあげる一方、ジャンク債など低い格付けのものは低下した。
これは米中貿易戦争の緊張が高まったせいである。2018年前半に、アメリカが輸入制限措置(セーフガード、ちなみにこちらは対中国ではなく全世界が対象だったが、中国を狙い撃ちにしたと言われている)を導入してから中国の態度が硬化し、同年後半にいよいよ殴り合いが始まり、今年に入っていったん収束の兆しを見せるが土壇場でのちゃぶ台返しというわけだ。
アメリカは2,493品目に対して、関税25%をかけ他の輸入品については5%から20%とすることを決めている。すでに実施されているものもあれば、6月まで実施が見送られるものもある。
逆に中国は6月から2,000億米ドル分の輸入品について10%から25%に関税をあげることを決定している。小型飛行機、コンピュータ、家具、化学薬品、精肉、小麦、ワイン、天然ガスなどだ。
60%ルール
米国には非公式に60%ルールなるものが存在すると言われている。ある国が米国の経済規模の60%に到達すると、米国はその国を全力で抑え込む、というルールだ。かつての1960年代のソ連や1980年代の日本もこの60%ルールに抵触したがためにアメリカに敵国扱いされた、と言われている。中国のGDPもすでにアメリカの経済規模の60%を超えている。
中国が市場を開放せんのはけしからん、中国が技術を盗むのはけしからんというのはトランプ流のポピュリズムに乗せてわかりやすく宣伝されているだけであって、米国の真の目的は中国を経済的に失速させ、米国の世界覇権の地位を安定させることにある。
そもそも、関税をあげて対中貿易赤字を強制的に減らしたとしても他の代替輸入地が増えて貿易赤字が米国全体として減るかどうかわからない。日本がかつて強国だった1980年代前半に、日米貿易摩擦によってトヨタのカローラがデトロイトの自動車工場労働者によってハンマーでボコボコにされている写真を一度は見たことがあるかと思う。日本は安くて良いものを作り、米国はそれを大量に消費するという絵は、今の米中貿易戦争にも同じように当てはまる。日本はそれから自主規制と称して米国向け輸出を縮小し、市場を開放し、米ドルを相対的に安くするために円の価値を切り上げた。
貿易不均衡はアメリカの旺盛な消費意欲と基軸通貨であるドルの性質からくるもので、勝った負けたの話ではない。
米国の中国からの輸入品に割高感があると、当然他の東南アジア諸国や日本が輸入代替地となることもあるかもしれない。しかしそもそも中国の経済活動に頼っている東南アジア、日本からするといくら米国からの輸入が増えたところで中国経済自体がマイナスだとその影響を免れることはできない。良くも悪くも、すべての国は米中経済に依存しているのだ。

ソ連、日本と米国の地位を脅かす国が次々と失速させられ、次は中国というわけである。中国はかつての日本と違ってアメリカに対して全面降伏する意思はない。ゆえに落とし所が見つかりづらく、この米中貿易戦争は長期化する可能性が出てきた。
ポートフォリオ
弊社としては、特定の政治事象があったからといってポートフォリオを変更することはない。あくまで企業業績やインフレ率、金利や銀行の融資残高の推移をみて判断する。よく私たちが引き合いに出すのが、 アメリカ同時多発テロ事件、911だ。911は心理的なダメージとしては非常に大きかった。ビルに飛行機が突っ込むなど、それまで誰が想像しただろうか。しかし金融経済にはあまり大きなインパクトを与えることはなかった。911が企業業績を下落させたり借り入れの急激な減少(デレバレッジ)を招くことはなかったからだ。不安や恐怖は売りの材料になるが、それが功を奏することは少ない。
しかし今回は別かもしれない。貿易戦争のエスカレートは確実に企業業績の下落を招く。企業業績が下落すれば銀行は貸し剥がし、貸し渋りをするようになる。ただでさえ伸び悩んでいる賃金が下落する。それがさらなる企業業績下落を引き起こす、という今瀬戸際にいる。
もし次の大阪サミットで習近平とトランプが劇的な和解をすることとなれば、株式市場は一気に上昇するだろう。逆に、会談が不調に終わって閉会の際に握手もしない目も合わせないであれば、この貿易戦争の応酬は一時的なものにとどまらずどちらかが我慢できなくなるまで続くだろう。その間、企業業績は落ち、借り入れは減少し、結果経済規模が縮小し、「景気後退か」とニュースで繰り返されるようになる。もともと低金利と自社株買いでもっていた株式市場は下落の速度を早めるだろう。
どちらにしてもこれから数カ月で大きなポートフォリオの変更を余儀なくされる公算が大きい。
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