1億円ポートフォリオ。それは1億円以上の金融資産を保有する方のポートフォリオ。このシリーズでは、そんな資産運用の勝ち組と言われるような1億円ポートフォリオホルダーがどのように資産を分散させているのかを実際の事例に基づきながら見ていきたいと思います。じっくりとお楽しみください。
このシリーズの第1回目はこちら
目次
女性 / 56歳 / 名古屋在住 / 弁護士の場合
生まれは九州熊本で小さい時に名古屋に出てきました。祖父が台湾との貿易で成功した人で、外国の方が家にしょっちゅう出入りするような環境で育ちました。今は兄が三代目をやっています。外国人のお客さんたちに小さい頃からかわいがってもらったせいもあってチビのわりにませてましたね。そのせいか、日本人独特のムラ社会にはあんまりなじめない子供時代でした。母親は夫をたてる人で「お父さんの言うことを聞いていればいいのよ」としょっちゅう口にするような世間知らず。母を反面教師にしていたので、私はきちんと手に職をつけて世の中を知りたいとずっと思ってましたね。法曹を志すようになったのは中学生くらいかな。その時はなんとなくカッコイイな、ぐらいの気持ちだったと思います。まだまだ女性が十分に活躍する時代でなかったから、可能なかぎり大それた目標を持つことその事自体に酔ってましたね。
一度決めたら突き進むタイプなので、高校生からは勉強も頑張って東京の大学の法学部に進学し、受験4回目で司法試験に合格しました。女性合格者というだけで何の実務経験もないのに、雑誌の取材依頼がきたりしました。5回チャレンジしてダメだったら実家の家業を手伝わなきゃいけないところだったから、セーフだったわ。司法修習が終わってから東京で5年くらいイソ弁(注:事務所に雇われて働く弁護士のこと。居候弁護士)して名古屋に戻ってきました。父の事業の関係者から仕事はもらえたので、今の若い弁護士みたいに経費ギリギリ切り詰めてやっていく独立残酷物語みたいなことにならなかったのはラッキーだった。
契約書とか交渉代理とか、家業周りの法律業務を拾っているだけでも十分だったのだけれど、本来勝ち気な性格だったしいつまでも祖父の七光りで食べてるんじゃ格好悪いでしょ。だから当時ではまだ珍しかったと思うんだけれど事務所の看板かかげているだけではなく積極的に色んな集まりに顔を出して名前を売っていったわ。当時はまだまだ男性優位社会だったし「女のお前に何ができるんだ」っていう風潮もあったからこちらから積極的にアピールしないと物事が前に進まなかったのね。
転機、というわけではないけれどそこから私の弁護士人生がガラッと変わったなという出来事があって。37,8才の時だったかな、大手のスーパーが出店するという話がきて、そのスーパーが出店したい土地があって、権利関係を調べてくれという依頼があって。権利関係を調べるくらいは何ともないんだけれど、実際に調べ始めたら非常に複雑な土地だということが分かったんだよね。関係者に直接アタックして裏をとっていくと、どうもヤクザ関係の人が絡んでいるみたいだったのよ。今も昔も、ヤクザ絡みの仕事は弁護士は絶対敬遠するのよね。ヤクザが怖いというのもそうなんだけれど、もしヤクザと絡んだ事実がへんなふうに伝わっちゃって”あの弁護士はヤクザと仲がいい”なんか言われちゃったら仕事の依頼がこなくなるよね。土地問題はただでさえ難しいのに、ヤクザ絡みとなるとどの弁護士もお手上げ。だから、普段だったら絶対コンタクトとれないような大手のスーパーが私なんかに仕事をふってくれたのよ。
いざ仕事、となったら張り切っちゃうのが私の性分。相手がヤクザであろうがなかろうが、体当たりでぶつかっていく。いくらヤクザだってこっちは女だし、戦後すぐじゃないんだからヤクザも鉄砲までは向けられないわよ。まぁいくらか怖い思いをして、すったもんだはあったけれどヤクザのメンツも立ててあげられ、権利関係を整理できて半年ほどかけてその案件は丸く収めることができて件の土地の上にスーパーが建ったのね。そしたらその大手スーパーが似たような案件をどんどん私に持ち込んでくるようになった。案件が増えてくるとそれなりに名前も売れ出すよね。そしたら土地絡みの難しい案件、地元の政治家なんかにお願いをしにいくようなややこしい案件が私のところにどんどん来ちゃって。自分としては弁護士の中核業務である”紛争解決”に純粋に尽力しているつもりだったのに、周囲が”あの先生は汚れ仕事までよくやってくれる”と評価しちゃってそこからいい仕事が舞い込むようになったわ。日本もすっかり成熟国でのどかな時代が続いていてヤクザ同士の荒事もずいぶん減ったから、もう私の役割は終わっちゃったのかもね。
自分で言うのは何だけど、お嬢様育ちの弁護士だからこういうことが出来たんだと思う。普通の感覚の持ち主だったら怖くてすっこんでしまうよね。それにややこしいモメ事に巻き込まれて食い扶持なくなったらどうしようって生活考えてしまうでしょ。当時はまだ結婚してなかったし、ダメなら熊本のお屋敷で隠遁生活すればいいやと思ってたから怖いものなしだった。だから婚期も逃しちゃった。ようやく結婚したのは41才。お相手は役所の人でバツイチ。男手一つで二人の娘さんを育てていた。司法試験に合格したときから人並みの幸せは諦めてたからすごく嬉しかったわ。娘たちはもう成人して社会人やってます。当時は仕事も忙しかったから母親としても妻としても失格でしたね。主人は理解のある人だったからいいのだけど。子供にしてあげられたことといえば、二人とも留学させたことくらいかな。
今は私の事務所も3人の弁護士を抱えていてスタッフあわせて10人の所帯。事務所をまわしていくためには営業をしなきゃいけないから依頼をより好みするわけにもいかないのよ。企業法務だけでなく、離婚や相続なんかの地味なお話も拾っていって人脈を丁寧につなぎ、地域にきちんと根を下ろしておかないとこれから地方の弁護士は厳しいんじゃないかしら。
資産運用? そうね… 証券会社に口座を持ってて、1年に2,3度取引してる程度かな。投資はするけれど、けっこう保守的。鉄道、飲料、あとはガス会社とか? 一時期凝りかけたけれど、ハマったら抜け出せなくて今の弁護士の仕事に影響をおよぼしそう、と考えて以降はあえてそういうディフェンシブな銘柄ばっかり選んでる。生命保険は勧められるままに買ってるから自分でも一体いくら入っているのか分からないくらい入ってるけど、香港の保険は保障額も利回りも段違いにいいのよね。日本の保険会社の人はその事実を知ってて日本の商品をオススメしてくるのかしら。
あと、これは資産運用とは言えないかもだけど… 私、事業投資が趣味ななんです。そしてその事業投資でけっこう人に騙されているのよ。弁護士なのに騙されるのか、って? う~んそう言われると返す言葉はないけれど… 事業投資するからオカネ投資して欲しいって言ったからその人にオカネを投資したら、すぐ連絡取れなくなって、1ヶ月後に”ポルシェ乗ってるのみたよ”と人づてに聞いたりとか、3ヶ月だけつなぎ融資をして欲しいと言われたからオカネを貸したら3ヶ月たたないうちにマレーシアで豪遊しているのをFacebookで見たりとか… 事業投資の話だったら1ヶ月に2,3回は聞くわね。別にそういう看板出してるわけでもないのに不思議よね。たぶんこういうの今まで40-50件はやってると思う。もちろん全部騙されたわけじゃないわよ。投資をした後、株主としてきちんと状況確認しなきゃいけないんだろうけれど、結局本業のほうが忙しくて放ったままにになっちゃうから騙されたかどうかすらも分からない案件がけっこうある。損失全部あわせたら軽く1億円はいくと思うわ。でもほとんど忘れかけていた投資先が買収されて投資金が5倍になったケースもある。でも全体としてはまだずいぶんとマイナス。
クライアントのオカネであればもちろんプロフェッショナルとしてリスクを可能な限り減らしたいと思うんだけど自分のオカネって思った途端どうでもよくなるのよね。なんと表現すればいいのか、どうせそのオカネがなくなっても自分一人が悔しがればいいだけのことだから、と思うとリスク感覚が麻痺しちゃうのよ。誰かの紹介で”有望な事業に投資をしませんか?” ってくるとすぐに投資しちゃう。ほら、東京と違って中部はまだまだ人間関係が濃密で、誰かの紹介で仕事がくることがほとんどだからなかなか断りづらくって… いや、それはもしかしたら言い訳かもしれない。本当は他の人のする事業に投資をしてみたいのよ。でも同時に、弁護士という仕事をプライベートである事業投資に持ち込みたくない。自分の職業は弁護士だけど、その前に一人の人間だから。困っている人がいたら純粋に力になりたい。頑張ってる若い人なら尚更ね。もしその事業がうまくいったら分け前を頂戴、でもダメでも文句は言わない。これってすごくシンプルだと思わない? 投資した先にゴチャゴチャ言うほど野暮なことはないわ。今の時代、プライベート・エクイティ(非上場企業に投資をする投資ファンド)は創業者の資産を担保にとったりエクイティ(株式)じゃなくてデット(債務)にすることもあるみたいだけど、そんな状況じゃ怖くて全力出せないよね。だから私はオカネは出すけど口は出さない。クライアントのオカネをそんなふうに扱うなら職業人としては失格だけれど、自分のオカネなんだから誰も文句はないでしょ。新しい事業の話を聞くとなんだかワクワクしちゃう。それに新事業の話をしている人の目はキラキラしてて素敵ね。すぐに心動いちゃう。簡単に投資を決めてくれて、後は追いかけない。こんないい投資家いないわよ。そんな私を見るに見かかねてウチの事務所に所属している先生が”先生(私)が投資した案件、代わってきちんと面倒みましょうか”と言ってくれるんだけど、そうなると職業領域とこの趣味がオーバーラップしちゃうからイヤなの。
香港には年に1回は高校時代の親友と遊びに行ってるの。まだ啓徳空港があったころのあの熱気がたまらなかった。西欧と東洋がぐちゃぐちゃに混ざって混沌としているんだけど、日本にはない温かい人情がある。それにみんな逞しく生きてるよね。人のせいにしないのが好き。香港は私にとってはエネルギースポットね。香港の空港に着いて飛行機降りた瞬間エネルギーが満ちてくるのを感じるくらい。仕事で2日連続の休みが取れると香港行こうかなって考えちゃう。香港での資産運用のことは、顧問先から聞きました。昔は資産家の秘密クラブみたいだったのか、今では敷居も低くポピュラーになってきているみたいね。5年ほど前に積立投資を勧められて始めたのだけれど、あれは今いくらになっているんだろう。紹介してくださった方とは連絡が取れなくなっちゃったから、また調べ方を教えてくださいね。
資産運用の中と外
資産運用の中 – 現在のポートフォリオ
非金融資産
自宅 – 3,000万円
金融資産
トータル17,000万円
・株式投資2,000万円
・非上場株式 11,000万円
・現預金4,000万円(すべて日本円、外貨なし)
※非上場株式は投資時点での時価
資産運用の外 – 資産運用に対する期待 / 悩み
運用期間 – ?年
期待運用利回り – 2-3%/年
騰落 – ?
レバレッジ – よく分からない
運用期間ねぇ、特に意識したことなかったわ。株は20年前くらいからやってるから、運用期間20年ということになるのかしら? 違うの? これから運用する期間? 弁護士って定年があるわけじゃないから事務所のキャッシュフローが回っているうちは安泰ね。期待利回りねぇ、株式ではディフェンシブ銘柄ばかり選んでるから、配当と値上がり益あわせて2-3%というところからしら。騰落… 3.11みたいなことがあれば別だけど、基本的に安定した株価のところばかり選んでるから騰落については検討したことはありません。レバレッジについてはよく分からないけど危ないことには手を出したくないわね。外貨? 日本に死ぬまで住むのに外貨で資産を持つ意味が分からない。
この1億円ポートフォリオホルダーから見習いたいエッセンス
1. 事業投資は趣味、と割り切る
もしこの方が事業投資をライフプランの一部に取り入れていたなら、心穏やかな日常を送れなかったに違いありません。事業投資は半丁博打に近いところがあります。事業が始まったばかりの未上場株式に投資するアメリカの著名な事業投資ファンドでも投資先の6割が回収不能(すなわちゼロ)、3割が出資した資金とトントンか少しいいくらい、1割が特大ホームランという構成です。その特大ホームランがどれだか分からないので数撃ちゃ当たる方式で多くの事業に投資をするのです。投資のプロたちが血眼になってその成績ですから、市井の事業投資家が事業投資を始めたからといってそうそう簡単には儲からないでしょう。しかしその儲からない話に自分の人生を賭けてしまっては悲惨な結末が待っています。事業投資は趣味、とさらりと言ってのけるしなやかさがあればオカネの問題で心を過度に痛めたりすることはありません。
2. 知らない、ということを知っている
特に男性にありがちなことですが、自分が得意な分野を無理やりにでも未知の分野に結びつけて理解しようとする傾向があるようです。たとえばビジネスにおいて成功する方は”自分はビジネスだけじゃなく投資もうまいんだ”と信じる傾向があります。しかしビジネスで成功することと資産運用で成功することは全く別問題。資産運用において大切ないくつかの要素を意図的に無視したりして大きな災いを招いたりするのです。その点、女性は知らないことを知らないとはっきりと主張できる強さがあります。こういった”自分はこの分野のことは知らない”という態度でいられることは強みの一つです。
IFAスイッチより
この方は、資産運用しているようでしていません。資産運用と呼ぶためには少なくとも運用期間を設定することが必要ですし、また”増やす”ということに貪欲にならなければいけません。期間もなく増やす意思もなければそれは資産運用ではないのです。しかし全ては程度問題で、それを自覚してさえいればいいのです。オカネが関わる問題は過度に私的になりがちです。アドバイザーには上から目線で”資産運用しなさい”という資格はありません。たとえば”友人にオカネを貸すときは返ってこないものと思え”という言い方がありますね。自分のオカネには自分の気持ちが乗っかっています。オカネが自分から離れるとき、そのオカネを自分の生霊のようにしてゆくえを執念深く追わせるのか、あるいは離れた瞬間に”サヨナラ、またどこかで会えるといいね”と言えるかによって本人がオカネを媒介することにより発生する人間関係への印象が全く異なるものになるのです。自分のオカネがどうなったか毎日不安だという方は資産運用に向いていません。それとは逆に完全にサヨナラを言えてしまう人のほうが結果的にはより大きな資産を残すことになるというのが私たちの経験からの結論です。