円安が進行しているが、これが1ドル=160には瞬間的にはなってもそれ以降続くことはない。日本もイールドカーブ・コントロールが緩和されつつありアメリカにいたっては利下げだ。これまでのトレンドが逆転する可能性が高くなってきた。 しばらく金融市場には凪(なぎ)が続くと思われる。ところでお客様に「運用にもAIを取り入れてみてはどうか」という質問があった。マーケットとは直接関係ないが、今回はそれに真面目に答えてみようと思う。 ChatGPTはすでに日常使いしていて、過去の経済事象についての調べ物をするファーストステップとなっている。たとえば「日銀が金利をあげられない理由」と入力すると、デフレの長期化や公的債務の増加などいろいろ教えてくれる。もちろんこれらの理由が100%正しいわけではなく、調べるきっかけとして列挙してくれさえすればゼロイチのリサーチには取っ掛かりとなってくれ、いわば優秀な秘書に調べ物をさせた上で最終的に自分で判断する、というようなプロセスだ。 もちろんChatGPTから得られる情報はごくわずかなので、そこから広げて情報をたどっていかなければならないわけだが、少なくとも「どこから手を付けていいか分からない」たぐいの問題に対してはChatGPTが今のところ有効だ。とはいえChatGPTは直近起こったことに関する回答は苦手である。たとえば「米国金利は6%を超えて上昇するか」と質問してみても直近の利上げについて考慮されていない回答しかでてこない。そういう意味では、ChatGPTに今後のポートフォリオについて何かを決定させることは難しいだろう。 ただこの質問をしてくださったこの方の主旨は「ChatGPTに限らずファンド選定やファンド売買のタイミングにAIを使ってみればどうか」というものだ。 実は既に試した。ファンドの日々の値動きデータを取り込み、コンピュータに学習させて何かしら有効なシグナルを得られるかを、いろんな本やらウェブサイトやら参考にして素人なりに作ってみた。AIにもよく使われるプログラミング言語の1つであるPythonを使い、金融資産をどう最適化するかのフリーのツールを使えば僕のような非エンジニアであっても、それこそChatGPTにプログラミング手法を聞きながらモデルを構築したりするとなんとかなるものだ。 しかし結果は芳しくなかった。いろんなモデルを作って過去のデータを使ってバックテストし、実際に売買のシグナルを出したらそのモデルを使って運用シュミレーションをしばらく続けたものの結果はダメ。単純なリターンだけでなく、ボラティリティを低くする、シャープレシオを高める、などいろいろ目標を変えて取り組んでみたもののダメだった。 またパラメータはいじれるものの、売買のシグナルを出す計算の過程がブラックボックスとなっており「なぜこのタイミングでシグナルを出すのか」についてだんだんと懐疑的になってしまい盲目的にシグナルを信じることができなくなっていった。オープンソースなのでしっかりと中のコードを読み込めば自分にも理解できたのかもしれないが、そこまでできなかった。 自分には無理でも、他のプロならうまくAIを活用して良質な売買シグナルを得ているファンドやアドバイザーがいるのではないかと思い調べてみた。 |
金融市場でのAI |
ユーレカヘッジ(Eurekahedge)というヘッジファンド専門のリサーチ会社がある。ユーレカヘッジでは、有象無象にあるヘッジファンドをカテゴリ分けしているが、人工知能を使ったヘッジファンドも多く登録されておりAIを用いたヘッジファンド群のパフォーマンスを計測している。これらのAIヘッジファンドはAIを使って銘柄選定を行ったり売買のタイミングをはかったりしている。 下記のグラフの青線がS&P500のリターン、白線に青塗りがAIヘッジファンドのリターンだ。AIヘッジファンド群はS&P500に対して大きくリターンが劣後している。これはAIヘッジファンド群なので、特定の一本のヘッジファンドではなく様々なAIヘッジファンドの集合体だ。それぞれのヘッジファンドで様々な学習モデルを使ってAIをトレーニングし市場に打ち勝とうとしているが、その試みは打ち砕かれていることがわかる。 |
金融市場とAIは相性が良いと言われているが、それでも金融市場を打ち負かすことはできないのだ。またすべてのヘッジファンドの中でもAI系のヘッジファンドは劣後している。AI運用だから素晴らしい、ということは決してなく、むしろAIファンドは劣等生であることがデータとして現れてしまっている。 |
「しかしAIを駆使して素晴らしい成績を出しているファンドはあるではないか」と言われると、おそらくその通りだろう。しかしそういったファンドはたいてい個人のお客様を受け付けていない。日本でも20年くらい前にバカ売れしたMan AHLというヘッジファンドがあるが、そこもクオンツという数字を駆使した運用手法を売りとしていた。綺羅星のごとき秀才がMan AHLに集結しAI、深層学習を運用に役立てようとしたが5年運用してもてダメだったという噂もある。 AIが金融市場を出し抜けないのは、AIが人間の考えることの先にまだ到達できないということの裏返しだろう。とはいえ、われこそは! と思う方はこういったオープンソースからチャレンジしてみるのもいいかもしれない。学習の過程で何かしら投資のインサイトを得られること請け合いだ。 |
【ポートフォリオ】 |
債券が安い。あとはタイミングを見計らうだけ。 |