イギリスのEU離脱に端を発する世界恐慌懸念、各地で起こるテロによる情勢不安などから安全資産である日本円に投資家の資金が集まりつつあります。一方で、日本ではマイナンバー制度の施行などで海外に財産を移す事に対する関心も引き続き高まっています。
パナマ文書の一件があってから海外投資に及び腰になる人もいる一方で、それでも日本に資産を置いておくよりはと、香港においてはHSBC個人口座及び法人口座のニーズが依然として存在しています。そこで、今回は法人口座に絞って、開設時に必ず抑えておきたい事項をまとめました。
目次
口座開設は必ず香港に来る必要がある
最もよくある質問が、「口座開設時には香港に行く必要がありますか?」というものです。これには例外無く、HSBC法人口座を作るためには必ず全ての取締役と株主が香港に来る必要があります。
また、香港IDもしくは香港の就労ビザを持っていない場合、最初に開設出来るのはHSBCもしくは恒生銀行(ハンセン)に限られます。
注意して頂きたいのは、法人口座を作ろうとしている側はお客様の気分かもしれませんが、香港においては銀行の方が立場が上という事です。香港法人に対して、香港の銀行は法人口座を開設する義務は全くありません。口座を開設するかどうかの最終決定は(当たり前ですが)銀行が下します。他の人間が影響力を行使する事は出来ません。100%の開設保証は誰にもできません。
たまに、口座開設が難しいのは銀行員とのコネが無いからだと言っている人がいますが、銀行員は特定顧客と親密な関係になることを強く禁じられていますし、頻繁な異動があります。親戚にHSBC行員がいる場合などは最新情報を手に入れる事は出来るかもしれませんが、開設が有利に働くことはあり得ません。国際金融都市香港はそんなに甘くありません。
もし香港IDもしくは就労ビザを持っていない外国人の場合、HSBCグループの銀行以外に選択肢はありません。また、中国もしくは少なくともアジアにおけるビジネスの実績が無い場合、口座開設は非常に難しくなります。口座開設時には、銀行員との面談の準備を綿密に行う必要があります。事前に要求されている全ての書類を用意することはもちろん、ドレスコードにも気をつけてください。
こんなビジネスの場合は法人口座を開設出来ない
法人口座開設時には必ずその法人がどんなビジネスを行うかを説明する必要がありますが、以下に該当する場合は、例外なく法人口座を開設することが出来ません。
1.ライセンスが必要な以下のビジネスであって、ライセンスを持っていない場合
- ブローカー・ディーラー
- ミューチュアル・ファンド・ヘッジファンド
- トラスト
- 証券取引所
- 先物取引
- 保険会社及び代理店
- 銀行
- オンラインカジノ
など
2.その会社がE-ゴールド、e-キャッシュなどの決済システムを提供するビジネスの場合
3.一般から資本を募るビジネス、マルチネットワークビジネスの場合
4.その会社が以下のビジネスを提供する場合
・アダルトコンテンツを含んだウェブサイト
・偽造ライセンス、資格の売買
・教会、チャリティー
5.取締役と株主が政治的リスクの高い国の出身である場合
香港においては、外貨の国内外への送金に制限はありません。自由なお金の流出入による犯罪抑止、銀行のサービスの不正使用を防ぐため、香港の全ての銀行では口座開設に対して厳しい要求があります。
HKMA(Hong Kong Monetary Authority / 香港金融管理局)は、全ての銀行に対して、口座開設時に10%以上の株式を持つ株主全員と主要な取締役全員と香港で面談することを要求しています。そして、出席者全員がパスポートと住所証明(※)を提出する必要があります。
(※)公共料金領収書や取得から2ヶ月以内の銀行の取引履歴
口座開設時に必要な書類と費用
口座開設に必要な書類と費用をまとめます。パスポートや会社関係書類は当たり前として、最も重要視されるのはビジネスプランと取締役、株主の経歴です。日本で行っている事業と全く関係のない事をやろうとしていたり、中国・アジアでの経験が乏しい場合は非常に開設が難しくなります。
- 上述した参加者全員分の、パスポートもしくは香港ID
- 参加者全員分の、取得から2ヶ月以内の住所証明(公共料金領収書や、氏名と住所が書かれた銀行の取引履歴)※もしそれが日本語で書かれている場合、相応の認証機関による英訳が必要です。(自分で英訳したものは不可)。日本語で書かれた原本及び英訳の両方を持参してください。
- 会社関係書類のコピー
・Certificate of Incorporation / 登記簿謄本
・Business Registration Certificate / 商業登記証
・NNC1 / 会社設立フォーム(NNC1)
・Article of Association / 定款 - もし既にビジネスを開始している場合はその証明(取引先からの請求書、顧客からの支払い証明、契約書、ウェブサイトのコピーなど)但し、ビジネスは中国もしくはアジア関連のものである事が望ましいです。口座開設成功率に関連してきます。
- 会社のビジネスプラン(顧客層、取引先、売上予測)
- 当該ビジネス領域における会社メンバーのスキルを証明するもの(資格、過去のプロジェクトの成果物や領収書、ブローシャー、ウェブサイトなど)
- 1,200香港ドルの口座開設費用支払、及び30日以内の10,000香港ドルの保証金入金(但し、口座開設に成功した場合)
- もし法人クレジットカード(ビザかマスター)を作る場合、最低50,000香港ドル以上の保証金
【番外編】日本法人が香港に法人口座を作れる?
こちらもたまに頂く質問なのでお答えしますと、日本法人が例えば香港のHSBCに法人口座を開くことはほぼ100%不可能、というか諦めた方がよいです。なぜなら、香港政府の様式に沿った定款や登記簿謄本の英語版を用意する必要がありますし、コスト的には、その日本法人の子会社として香港法人を作り、その香港法人で申請したほうが遥かに安くなるからです。また、香港現地法人を立てずになぜ日本法人のまま法人口座を作るのか、合理的な説明が出来る場合は少ないと思います。わざわざ租税回避の温床になるような行為を香港の銀行が認めるとは考えにくいです。
BVIやセーシェルなどのオフショア法人についても、香港での銀行口座開設は100%拒否されます。昔はよくこのような行為が行われていましたし、租税回避に利用されていましたが、今は事業実体が無いオフショア法人に資金を入れて節税することは不可能になっています。海外に法人を作って節税するのであれば、そこで事業実体を作ることが必要です。上述した香港の法人口座開設の厳しさもそこに繋がっています。